再生医療とは~失われた臓器や組織の再生を目指す新しい治療法

再生医療とは

「再生医療」とは、病気や事故などの理由によって失われた臓器や組織の再生を目指す新しい治療法です。
根本的な治療法になり得ると考えられており、現在、実用化に向けたさまざまな臨床試験が開始されています。
再生医療の治療法は、幹細胞などといった特殊な細胞を取り出して活用し、機能障害や欠損・不全などが生じている臓器や組織を元通りに再生させて回復を目指します。
さまざまな臨床研究の成果から、組織や臓器などを再生させる可能性が見えてきました。
将来的には、自身の細胞から新しい組織を作り出して、疾病を引き起こしている臓器と取り替えるようなこともできるようになるかもしれません。
既存の治療法においては、なかなか思うように回復が難しい病気や、そもそも治療法が確立されていないものもあります。
しかし、再生医療ではこのような疾患に対しても、新たな治療法となる可能性があると考えられているのです。
ただ、私たちの身体は60兆もの細胞によって構成されており、組織や臓器はどれだけ小さなものでも、数億単位での細胞が必要となります。
少ない細胞を大きく再生させる技術や、再生させた組織や臓器をきちんと働かねば意味がないのです。
そのため、慢性疾患や難しい治療が必要な疾患を改善させるために、研究・開発が行われているのです。
美容分野でも期待されている再生医療

私たちが慢性的な疾患を引き起こす原因として考えられるものに「老化」があります。
特に平均寿命が伸びる中で、老化によって生じる慢性疾患が増えていることが指摘されています。
しかし、再生医療の研究や開発が進めば、臓器や組織の老化の原因による慢性疾患を根本的に解決できる治療法にありうる可能性があります。
また、この技術は美容に対して大きな影響を与えるものであると考えられています。
私たちは加齢と共にしわやたるみが見られるようになりますが、これは肌の真皮線維芽細胞が減少することによって生じることが知られています。
今まで肌の老化に対しては保湿など外側からのアプローチがなされてきましたが、美容に活用される再生医療においては直接的な治療法として期待されています。
再生医療に活用される幹細胞は、分裂や増殖を繰り返して、身体のあらゆる細胞として維持する特殊な能力を有しています。
また間葉系幹細胞と呼ばれる細胞は、骨や軟骨、脂肪、靭帯、腱などの組織に活用できると言われており、美容医療においてとても重要な役割を持っていると言われます。
近年、取り組まれている美容分野での再生医療にはさまざまなものが見られます。
しわやたるみの治療においては自身の細胞によるコラーゲンやヒアルロン酸注射、美容整形の分野においては再生軟骨の活用、培養毛乳頭細胞移植による毛髪再生などです。
このような研究がさらに進むことで、病気や障害の治療だけではなく、美容分野においてもより安全で有効な医療に応用できると期待されているのです。
臓器や組織を人工的に作り出す「組織工学」とは
冒頭からお伝えしている通り、再生医療では機能障害や欠損・不全などを生じている臓器や組織を元通りに再生させて回復を目指します
この再生医療の考え方は、アメリカの生体工学者であるランガー教授と麻酔科医であるバカンティ教授が提案した組織工学(ティッシュエンジニアリング)から広がりました。
組織工学とは、機能をうまく果たせていない臓器や組織を、科学と工学を活用して変わりとなるものを作り出す考え方のことを指しています。
この組織工学においては、臓器や組織を人工的に作り出すために、我々の体内にある細胞、細胞が活動するための場所を提供するマトリックス、良い作用をもたらす生理活性物質の組み合わせが大切であると考えられています。
私たちの体には60兆もの細胞が存在すると知られており、小さな組織においても数億もの細胞によって構成されているものも少なくありません。
再生医療においては、臓器や組織を再生するための細胞を確保することがもっとも重要な要素になります。
また、少ない細胞から大きな組織を作り出すために、再生するには長い時間を有することになりますので、細胞の存在だけではなく「マトリックス」と「生理活性物質」の存在がとても大切になるのです。
組織工学の分野では、緊急時でも対応できるように、他人の細胞を活用してあらかじめ臓器や組織を作っておくことや、人工組織をつくることによって細胞がなくても機能させる技術の研究にも取り組まれています。
また、人工臓器を活用することで再生するまでの期間に補完させることも提案されています。
大きな変革がみられる医薬品~バイオ医薬品から再生医療へ

組織や臓器の再生を目指す再生医療が新しい治療法として臨床試験が行われる中で、医薬品開発においても大きな変革が見られるようになりました。
従来の医薬品は、「低分子医薬品」と呼ばれており、化学反応によって製造開発されてきました。
それに対して近年、積極的な開発に取り組まれるようになった「バイオ医薬品」においては、人体に存在する生体物質が利用されています。
細胞を培養したり、融合させたり、遺伝子を組み替えるなどといったバイオテクノロジーを利用した医薬品のことを「バイオ医薬品」と呼んでいます。
特に人間の体の中で作り出されている免疫機能を担っている生体物質を利用した「抗体医薬品」と呼ばれるバイオ医薬品の市場が急拡大しています。
「低分子医薬品」と「バイオ医薬品」を比較した場合、タンパク質や抗体の分子量が大きいのが特徴的です。
効果が高い上に副作用が少ないため、さまざまな疾病に利用できると考えられています。
現在では、バイオ医薬品を用いた治療において、再生医療に取り組むといった新しい治療法の臨床試験も始められています。
わが国では薬事法の改正によって薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)が制定され、バイオ医薬品が早期に承認される取り組みが行われています。
細胞の培養や融合などの加工を施したバイオ医薬品においては、有効性が推定され、安全性が確認されれば、一定の条件などを付して早期に承認されるようになったのです。
幹細胞とは~再生医療の研究で中心的存在

「幹細胞」とは、失われた組織を補充する能力を持った細胞であり、「分化能」「自己複製能」といった再生医療に不可欠な2つの能力を兼ね備えています。
「分化能」とは、皮膚や血液など、新しい細胞に変化する能力をいい、「自己複製能」とは幹細胞が同じ幹細胞に分裂できる能力のことを言います。
私たちの体の中にはさまざまな細胞がありますが、皮膚や血液は細胞の寿命が短いために、組織を保つために絶えず新しい細胞に入れ替わっています。
幹細胞は失われた組織を再生させる能力が備わっているために、ケガや病気などによってダメージを受けたとしても、組織を補充することができるのです。
再生医療で注目されている幹細胞には3種類あり、私たちの身体の中に存在する「体性幹細胞」、受精卵(胚)から培養する「ES細胞」、人工的に作られる「iPS細胞」が存在します。
現時点で再生医療への応用が進んでいるのは「体性幹細胞」です。
ヒトES細胞とは
ES細胞とは、私たちの体の中にあるさまざまな組織幹細胞を作り出すことができるために「多能性幹細胞」と呼ばれています。
再生医療の研究では、もっとも中心的な存在として注目されています。
ES細胞は「胚性幹細胞」と呼ばれるもので、受精卵が分裂して細胞の塊となった胚の内側の細胞を取り出し、培養したものを言います。
1998年にアメリカでヒトからES細胞を取り出すことに成功しています。
ただ、ES細胞を作り出すために使用する受精卵は、胎児になる途中の胚の中にある細胞を取り出して培養するため、倫理的な問題があります。
そのため、ES細胞の元となる胚については、不妊治療の際に不要となった胚が活用されており、提供者の同意のもとに作られています。
ちなみに近年注目されている「iPS細胞」とは、体細胞に遺伝子を入れて人工的に作成した幹細胞であり、ES細胞と同等の能力があるうえに、倫理上の問題も解決していることから注目されています。
ヒト幹細胞を用いた臨床研究
再生医療については、まだまだ分かっていないことが多いですが、幹細胞が大きな鍵を握っていると言って間違いありません。
そのため、ヒト幹細胞を活用した臨床研究を進めていく必要があります。
ただ、再生医療の研究者がヒトの細胞を入手することは大変難しい状況であり、その現状が再生医療発展の妨げになると考えられてきました。
そのため、研究に必要なヒト幹細胞を十分供給できるように、文部科学省において再生医療の実現化プロジェクトが行われています。
研究に必要なヒト幹細胞の供給体制を構築し、パーキンソン病や脊椎損傷、心筋梗塞などの難病、生活習慣病などに対する再生医療の実現、新しい治療法の実用化を目指しています。